「今際の際」の読み方は、いまわのきわです。
漢字を一文字ずつ読むと間違えやすい言葉ですが、「今際」は「いまわ」、「際」は「きわ」と読みます。
小学館の『デジタル大辞泉』では、次のように説明されています。
臨終の時。死にぎわ。「今際の際に言い残す」
『精選版 日本国語大辞典』でも、今際の際を「臨終の時」「死にぎわ」「最期の時」と定義しています。つまり、両辞書とも、人がこの世を去ろうとする瞬間を表す言葉として扱っています。
ここで押さえておきたいのは、「今際の際」が単に人生の終盤や高齢期を意味するわけではないという点です。
具体的には、次のような場面で使われます。
- 人が息を引き取ろうとする直前。
- 死を迎える間際に、家族や大切な人に言葉を残す場面。
- 物語の登場人物が、命の終わりに際して最後の願いや思いを伝える場面。
また、「今際」だけでも死にぎわや臨終を意味します。
そのため、「今際の際」は意味の近い言葉を重ねた表現とも捉えられますが、辞書にも掲載されている確立した慣用表現です。重複しているから誤用というわけではありません。
【語源を解説】今際は「今は限り」から生まれた言葉

「今際」という言葉の成り立ちを理解するには、「今は限り」という古語を知る必要があります。
「今は限り」は「いまはかぎり」と読み、文字どおり、今が限界であること、これ以上先はないことを意味します。
人の命に当てはめれば、「これがこの世で過ごす最後の時」という意味になります。
小学館の『デジタル大辞泉』は、「今際」の語源について「今は限り」の意から生まれたと説明しています。『精選版 日本国語大辞典』も、「今はこの世の限りだという時」という意味を示しています。
「今は限り」から「今際」への意味の変化
言葉の成り立ちは、次のように整理できます。
1. 今は限り:今が最後である、これ以上はないという意味。
2. 今はの際・今はの時:この世で過ごす最後の時を表す表現。
3. 今際(いまわ):死にぎわや臨終を意味する名詞として定着。
4. 今際の際:命が終わろうとするまさにその時を表す慣用表現。
注目したいのは、「今際」の「わ」が、もともと「今は」の助詞「は」に由来する点です。
現代では「いまわ」という一語の名詞として定着しているため、「今は」と分けずに「今際」と書きます。
「今は限り」の古い用例にも注目
「今は限り」という表現は、古典文学にも登場します。
『古今和歌集』秋下には、散っていない紅葉を、すでに散る時が近づいたものとして惜しむ歌があります。
また、『源氏物語』橋姫には、病の終わり、すなわち臨終に関係する意味で「今は限り」が使われています。
こうした用例からも、「今は限り」が単なる物事の終了だけでなく、人の命の終わりを表す言葉として古くから使われていたことが分かります。
【古典文学で検証】源氏物語・夜の寝覚に残る今際の用例
「今際」は、現代になって突然生まれた言葉ではありません。
平安時代の物語文学に、その語源や意味につながる表現が確認できます。
特に注目したいのが、『源氏物語』と『夜の寝覚』です。
1. 源氏物語の「今はとなるまで」
『精選版 日本国語大辞典』の「今際」の項目では、初出の実例として『源氏物語』桐壺巻の一節が挙げられています。
該当するのは、桐壺更衣の父である故大納言について述べた箇所です。
故大納言いまはとなるまで
ここでの「いまはとなるまで」は、故大納言が臨終を迎えるまでという意味です。
この例で興味深いのは、現代の「今際」という漢字表記そのものではなく、「今は」という形で命の終わりを表していることです。
つまり、現代の「今際」という語の背景にある意味が、平安時代の物語にもすでに存在していたことを示しています。
2. 夜の寝覚の「いまはのきはまで」
もう一つ重要なのが、平安時代後期の物語『夜の寝覚』です。
『精選版 日本国語大辞典』の「今際の際」の項目には、同作品の四から次の用例が掲載されています。
ことわり、いまはのきはまでいみじう心置き、この宮により、うらみをとどめてしかば、さもあらん
ここに登場する「いまはのきはまで」は、現代の「今際の際」とほぼ同じ形を持つ表現です。
この用例が示すのは、「今際の際」という言い回しの背景が、古典文学にまでさかのぼることです。
現代の辞書が古典作品を出典として挙げていることは、この言葉の歴史を理解するうえで大きな手掛かりになります。
3. 古典の用例と辞書の記録を比較
| 作品・資料 | 時代・年代 | 用例・内容 | 意味・位置付け |
|---|---|---|---|
| 『源氏物語』桐壺 | 1001~1014年頃 | 故大納言が「いまは」となるまで | 臨終を表す語の古い実例 |
| 『夜の寝覚』四 | 1045~1068年頃 | 「いまはのきはまで」 | 今際の際に相当する表現 |
| 『伊勢物語』 | 10世紀前半 | 「今はかぎりと」 | 物事の終わりを表す |
| 『今は限り』の辞書項目 | 古典文学の用例を収録 | 生涯の最後、臨終 | 今際の語源に関係する表現 |
| 『デジタル大辞泉』 | 現代の国語辞典 | 臨終の時、死にぎわ | 現代語としての意味を整理 |
このように、古典に見られる「今は」「今はの際」という表現と、現代の「今際」には意味の連続性があります。
単に難しい漢字を使った文学的な言い回しではなく、長い日本語の歴史の中で受け継がれてきた表現なのです。
【意味を比較】今際の際と死に際・臨終・最期・末期の違い
「今際の際」と似た意味を持つ言葉には、「死に際」「臨終」「最期」「末期」「終焉」などがあります。
いずれも死に関係する表現ですが、使用場面や言葉の響きには違いがあります。
今際の際と死に際の違い
最も混同されやすいのが「今際の際」と「死に際」です。
両者は基本的に同じような状況を表します。
ただし、ニュアンスには違いがあります。
今際の際
- 臨終の瞬間を強調する表現。
- 文学的で、やや改まった響きがある。
- 最後の言葉や願いなどを描写するときに向いている。
死に際
- 死を迎える間際を表す一般的な表現。
- 日常的な説明や会話でも使いやすい。
- 死ぬ直前の状況や振る舞いを表すときにも使われる。
例えば、「父の死に際に立ち会った」は自然な表現です。
一方、「父は今際の際に家族へ言葉を残した」とすれば、人生最後の瞬間に焦点を当てた、より文学的な印象になります。
臨終・最期・末期の違い
この3つも意味が重なりますが、それぞれ特徴があります。
臨終(りんじゅう)
人が死を迎える直前の状態や、その時を表す言葉です。
「臨終を迎える」「臨終に立ち会う」など、医療や看取り、葬送に関係する場面でも使用されます。
比較的客観的で、改まった表現です。
最期(さいご)
人の命が終わる時を意味します。
「最期を看取る」「最期の言葉」「最期まで戦う」など、人の人生の終わりや、その人がどのように生きたかを表現する際に適しています。
末期(まつご)
人が死のうとする時や、命の終わりを意味します。
「末期の水」「末期の言葉」といった表現で使われます。
注意したいのは、「末期」には「まっき」という読み方もあることです。
「まっき」は、ある物事の終わりに近い時期を表します。
例えば「戦争の末期」「病気の末期」などです。
同じ漢字でも「まつご」と「まっき」では意味が異なります。
最後と最期の違いも押さえておきたい
「さいご」という言葉には、「最後」と「最期」の2種類があります。
違いは、主に何の終わりを表すかです。
- 最後:物事や順序の一番終わり。
- 最期:人の命が終わる時。
例えば、次のように使い分けます。
- 会議の最後に質問をした。
- 人生の最期を家族と過ごした。
- 彼は最期まで希望を捨てなかった。
- 学生生活の最後の日を迎えた。
『デジタル大辞泉』でも、「最後」は物事のいちばん後ろや終わりを基本的な意味とし、「最期」は命の終わる時と区別しています。
したがって、人の死を表現する場合には「最期」を選ぶと、意味が明確になります。
類語の意味と使い分け一覧
| 言葉 | 読み方 | 主な意味 | 適した場面 |
|---|---|---|---|
| 今際の際 | いまわのきわ | 臨終の瞬間 | 文学的な描写、最後の言葉 |
| 今際 | いまわ | 死にぎわ、最期 | 文語的な表現 |
| 死に際 | しにぎわ | 死を迎える間際 | 日常的な説明 |
| 臨終 | りんじゅう | 死を迎える直前 | 看取り、医療、葬送 |
| 最期 | さいご | 命が終わる時 | 人生の終わり、遺言 |
| 末期 | まつご | 死にぎわ | 末期の水、末期の言葉 |
| 終焉 | しゅうえん | 死を迎えること、終わり | 文学的表現、人生や時代の終わり |
| 断末魔 | だんまつま | 死ぬ間際の苦しみ | 苦痛を伴う死の描写 |
なお、「断末魔」は単なる臨終の言い換えではありません。死に際の苦しみや叫びを含む、かなり強い表現です。
穏やかな最期を描写したい場面では、安易に使わないほうが適切です。
【正しい使い方】今際の際の例文5選と使用時の注意点
「今際の際」は、意味を理解していても、実際の文章で使う機会はそれほど多くありません。
特に、日常会話よりも小説、随筆、追悼文、人物の生涯を振り返る文章などで使いやすい言葉です。
今際の際を使った例文5選
例文1:家族の看取りについて
祖父は家族に見守られながら、今際の際を迎えた。
人が亡くなる瞬間を、落ち着いた文学的な表現で伝えています。
例文2:最後に残した言葉について
彼は今際の際に、家族への感謝を伝えたという。
人生最後の瞬間に残された言葉や思いを表現する例です。
例文3:歴史上の人物について
武将は今際の際まで、自らの信念を曲げなかったと伝えられている。
歴史上の人物の生き方や最期の姿勢を描写する場合にも使えます。
例文4:小説や映画の描写
主人公は今際の際に、長年隠していた秘密を明かした。
物語の重要な場面や、登場人物の最後の告白を表す例です。
例文5:人生の振り返り
彼女が今際の際に何を思ったのか、今となっては知るすべもない。
故人の心情に思いを寄せる文章で使用できます。
今際の際を使うときに避けたい3つの間違い
1. 読み方を間違える
「今際」は「いまぎわ」ではなく「いまわ」です。
また、「際」はここでは「さい」ではなく「きわ」と読みます。
正しくは「いまわのきわ」です。
2. 単なる物事の終了に使う
「今際の際」は基本的に人の臨終を表す言葉です。
例えば、次のような使い方は本来の意味から外れます。
- 会議の今際の際に発言した。
- 試合の今際の際で逆転した。
このような場合は「終了間際」「最後の局面」「土壇場」などが適切です。
3. 死が確定していない人に安易に使う
「今際の際」は、命の終わりを強く連想させる言葉です。
重い病気にかかっている人や高齢者について、医学的な状況を確認せずに「今際の際だ」と表現すると、不必要に強い印象を与えます。
医療や介護の説明では「病状が進行している」「終末期にある」など、状況に応じた表現を選ぶほうが適切です。
今際の際はどんな文章に向いている?
使用場面によって、言葉を選ぶと文章の印象が変わります。
- 小説や文学作品:今際の際
- 人生の振り返り:最期
- 看取りや医療の説明:臨終
- 一般的な会話:死に際
- 死を迎える時期の描写:末期(まつご)
大切なのは、難しい言葉を使うことではありません。
伝えたい状況や文章の雰囲気に合わせて、最も意味が伝わりやすい表現を選ぶことです。
【表記の注意点】今際・今わの際・今はの際はどれが正しい?
「今際の際」を文章に書くとき、もう一つ迷いやすいのが表記です。
主に次のような書き方が見られます。
- 今際の際
- 今わの際
- いまわの際
- 今はの際
これらはすべて同じように扱ってよいのでしょうか。
「今際の際」は辞書に掲載されている表記
「今際の際」は、小学館の『デジタル大辞泉』にも掲載されている表記です。
「今際」を漢字で表すことで、意味が分かりやすくなります。
一般的な記事や文章で使う場合にも問題ありません。
「今わの際」はどうなのか
「今わの際」という表記も、慣用句の解説などで見られます。
例えば、イミダスの「ルーツでなるほど慣用句辞典」では、「今わの際」という表記が採用されています。
また、「今わの折」「今わの時」といった関連表現も紹介されています。
「今はの際」は語源を意識した表記
「今際」の語源が「今は限り」であることから、「今は」と書きたくなる人もいる可能性があります。
歴史的な成り立ちを考えれば、その疑問は自然です。
ただし、現代の仮名遣いでは「いまわ」と表記するのが基本です。
この点については、文化庁が公開している昭和61年(1986年)7月1日付の内閣告示「現代仮名遣い」が参考になります。
同告示では、助詞の「は」は通常「は」と書くとしたうえで、例外として「いまわの際」を明記しています。
つまり、「今は限り」という語源があるからといって、現代の表記でも必ず「いまは」と書かなければならないわけではありません。
迷ったらどの表記を選ぶべき?
一般的な文章であれば、次の使い分けがおすすめです。
- 漢字を使う文章:「今際の際」
- 読みやすさを重視する文章:「いまわの際」
- 慣用句としての表記:「今わの際」
特に、読み方を間違えられやすい文章や、幅広い読者を対象にする記事では、「今際(いまわ)の際」と最初に読みを添える方法もあります。
【よくある質問】今際の際に関するFAQ
Q1:今際の際は何と読みますか?
A1:「いまわのきわ」と読みます。「今際」は「いまわ」、「際」は「きわ」です。「いまぎわのさい」とは読みません。
Q2:今際と今際の際は意味が違いますか?
A2:基本的には同じく臨終や死にぎわを意味します。「今際」だけでも死にぎわを表し、「今際の際」はその瞬間を強調する慣用表現です。
Q3:今際の際の語源は何ですか?
A3:「今は限り(いまはかぎり)」に由来します。「今がこの世で過ごす最後の時」という意味が、死にぎわや臨終を表す「今際」へとつながりました。
Q4:今際の際と死に際はどちらが正しいですか?
A4:どちらも正しい日本語です。「死に際」は一般的で分かりやすく、「今際の際」は文学的で改まった印象があります。表現したい文章の雰囲気によって選べます。
Q5:今際の際と最期の違いは何ですか?
A5:「今際の際」は死を迎えるまさにその時を表し、「最期」は命が終わる時や人生最後の場面を表します。「最期」のほうが幅広い文脈で使用できます。
Q6:「末期」は「まつご」と「まっき」のどちらで読みますか?
A6:どちらも正しい読み方ですが、意味が異なります。「まつご」は人の死にぎわ、「まっき」は物事の終わりに近い時期です。「末期の水」は「まつごの水」と読みます。
Q7:今際の際は「今わの際」と書いても間違いではありませんか?
A7:「今わの際」という表記も慣用句の辞典などで使われています。漢字表記なら「今際の際」、現代仮名遣いに沿った表記なら「いまわの際」が分かりやすい選択です。
まとめ:今際の際は「いまわのきわ」|語源と意味を知れば正しく使える
「今際の際」は「いまわのきわ」と読み、人がこの世を去ろうとする臨終や死にぎわを意味する言葉です。
その語源は「今は限り」にあり、平安時代の『源氏物語』や『夜の寝覚』にも、現在の意味につながる表現が残されています。小学館の『デジタル大辞泉』や『精選版 日本国語大辞典』にも掲載されており、古くから受け継がれてきた日本語の一つです。
最後に、正しく使うための判断基準を整理します。
- 読み方を伝えるなら「いまわのきわ」。
- 語源を説明するなら「今は限り」。
- 日常的な表現なら「死に際」。
- 改まった説明なら「臨終」。
- 人生の終わりを表すなら「最期」。
- 物事の終わりを表すなら「最後」。
【プロの結論】「今際の際」という言葉の本質は、単なる終わりではなく、今まで続いてきた人生がこの世で最後を迎える、その境目を表現していることにあります。
語源である「今は限り」を理解し、「最後」と「最期」、「死に際」と「臨終」を適切に使い分ければ、文章の意味はより正確になります。文学作品や追悼文などでこの言葉に出会ったときも、その背景にある日本語の歴史や表現の深さを感じ取れるはずです。