うなぎによる食中毒を考えるうえで、姫路市と横浜市の2つの事例は重要な比較対象になる。どちらも夏場のうなぎ料理が関係しているが、検出された病因物質は異なり、衛生管理上の注意点にも違いがある。
2026年8月・姫路市では蒲焼からサルモネラ属菌による食中毒
姫路市保健所が2026年8月6日に公表した発表資料によると、発端となったのは、7月26日に市内の露店で購入したうなぎ蒲焼を食べた人からの体調不良の連絡だった。
7月27日午前10時に初発患者が確認され、その後、別の3グループからも申し出があり、合計4グループ14人が発熱、腹痛、下痢などを発症した。患者14人の内訳は男性6人、女性8人で、年齢は3歳から75歳までだった。
医療機関で実施された便検査では、3グループ4人からサルモネラ属菌O4群が検出された。姫路市は、共通する食事が当該露店で調理された食事だったこと、症状と潜伏期間が類似していたことなどから、露店の食事を原因とする食中毒と断定した。
当該露店のうなぎ蒲焼は282尾販売されていた。患者のうち2人が入院したものの、発表時点で重症化は確認されていない。施設には8月6日と7日の2日間の営業停止命令が出された。
なお、姫路市の公表資料では、調理従事者の便検査などは調査中とされている。したがって、サルモネラがどの工程で食品に付着したのかという具体的な汚染経路まで確定したわけではない。
2024年7月・横浜市ではうなぎ弁当による大規模な集団食中毒
もう一つの重要な事例が、2024年7月24日から25日にかけて横浜市内で発生した、うなぎ弁当などによる集団食中毒だ。
国立保健医療科学院の健康危機管理情報に掲載された横浜市衛生研究所の詳細報告によると、対象となったのは、商業施設で購入したうなぎ弁当、うなぎ蒲焼、飲食店で提供されたうな重などだった。
喫食者1,305人のうち162人が発症し、下痢、嘔吐、腹痛などの消化器症状を呈した。
原因物質は黄色ブドウ球菌。加えて、食品の残品、患者の便、調理従事者の手指、調理場のふき取り検体から、エンテロトキシンA・C産生性の黄色ブドウ球菌が検出された。
これは、完成したうなぎ料理が調理後の取り扱いや盛り付けなどを通じて汚染される危険性を示す事例である。横浜市が公開している黄色ブドウ球菌の解説でも、手指の傷や化膿巣などを介した食品汚染に注意を呼びかけている。
2つの事件を比較すると見える衛生管理上の違い
この比較で注目したいのは、うなぎ蒲焼が十分に焼かれているかどうかだけでは安全性を判断できない点だ。横浜市の事例では、加熱後に食品へ菌が付着し、毒素が産生される可能性が問題になる。
一方、姫路市の事例ではサルモネラ属菌が確認されている。うなぎ料理を安全に提供するには、加熱工程と加熱後の衛生管理を切り離さずに考える必要がある。
【原因を解説】サルモネラ属菌と黄色ブドウ球菌はどう違う?

うなぎ食中毒の原因として押さえておきたいのが、サルモネラ属菌と黄色ブドウ球菌の性質の違いだ。同じ細菌性食中毒でも、人体に影響を及ぼす仕組みは大きく異なる。
1.サルモネラ属菌は生きた菌による感染型食中毒
サルモネラ属菌は、鶏、豚、牛などの動物の腸管や河川、下水など自然界に広く分布する細菌だ。東京都保健医療局の食品衛生情報では、2,500種類以上の血清型が知られていると説明されている。
原因食品としては卵や食肉がよく知られているが、うなぎやスッポンなども挙げられている。
サルモネラ属菌による食中毒は、汚染された食品を食べて菌が体内に入ることで発症する。一般に、菌は十分な加熱によって死滅するため、食品の中心部まで火を通すことが基本となる。
ただし、加熱後に汚染された器具や手指で食品を扱えば、再び菌が付着する可能性がある。加熱だけでなく、調理工程全体の衛生管理が欠かせない。
2.黄色ブドウ球菌は食品中でつくられる毒素が問題
黄色ブドウ球菌は、人間の皮膚、鼻の中、喉などにも存在する身近な細菌だ。特に手指の切り傷や化膿した部分には多く存在することがある。
この菌の特徴は、食品中で増殖する際にエンテロトキシン(腸管毒)という毒素をつくることだ。
重要なのは、食中毒を引き起こす主な原因が、菌そのものではなく、食品中に産生された毒素である点だ。
横浜市の解説によれば、黄色ブドウ球菌自体は熱に弱い一方、エンテロトキシンは熱に強く、通常の加熱調理では無害化されない。冷凍しても、一度できた毒素がなくなるわけではない。
つまり、調理後に食品を放置して毒素がつくられてしまうと、食べる直前に温め直しても安全性を回復できない場合がある。
3.うなぎ料理では調理後の工程も危険ポイントになる
うなぎの蒲焼は、焼く工程で十分に加熱される料理だ。しかし、焼き上がった後には、切り分け、たれを付ける、容器に盛る、ご飯に載せる、弁当として包装するといった工程が続く。
これらの作業で使用する手袋、トング、包丁、まな板、容器などが汚染されていれば、加熱済みのうなぎにも細菌が付着する可能性がある。
特に大量販売では、調理と包装のタイミング、作業人数、食品を置いておく時間が衛生管理の重要な要素になる。横浜市の事例で、調理従事者の手指と調理場のふき取り検体から原因菌が検出されたことは、この点を考えるうえで重要だ。
食中毒を防ぐには、焼き上げたら終わりではなく、消費者が口にするまでの全工程を管理しなければならない。
【誤解を解消】うなぎの血清毒と細菌性食中毒は別物
うなぎの食中毒を調べると、「うなぎには血液に毒がある」という情報を目にすることがある。これは事実だが、サルモネラ属菌や黄色ブドウ球菌による食中毒とは別の問題である。
うなぎの血液には自然毒が含まれている
厚生労働省の「自然毒のリスクプロファイル」によると、うなぎ、アナゴ、ハモ、ウツボなどのウナギ目魚類には、血清毒と呼ばれる自然毒が存在する。
新鮮なうなぎの血液を大量に飲んだ場合、下痢、嘔吐、皮膚の発疹、チアノーゼ、不整脈、呼吸困難などを引き起こす可能性があり、重い場合には死亡することもあるとされる。
この毒成分はタンパク質で、英語では魚類血清毒を意味する「ichthyohemotoxin」などと呼ばれる。
通常の蒲焼では血清毒の危険性は低い
ここで重要なのは、うなぎの血清毒は熱に弱いということだ。
厚生労働省によれば、血清毒は60℃で5分間加熱すると毒性を失う。したがって、通常の加熱調理を行ったうなぎについては、食品衛生上の問題はないとされている。
また、厚生労働省の資料では、国内におけるうなぎ血清毒による食中毒の正式な記録はないとされている。
3種類の危険性を混同しないことが大切
| 原因 | 正体 | 主な対策 |
|---|---|---|
| サルモネラ属菌 | 生きた細菌 | 十分な加熱・二次汚染防止 |
| 黄色ブドウ球菌 | 食品中で産生された毒素 | 手洗い・衛生管理・低温保存 |
| うなぎの血清毒 | 血液に含まれる自然毒 | 生血液を口にせず、通常の加熱調理を行う |
「うなぎそのものに毒があるから蒲焼で食中毒になる」という理解は正確ではない。自然毒、細菌、細菌が産生する毒素は、それぞれ異なる仕組みで健康被害を引き起こす。
家庭でうなぎをさばく場合には、血液が目や口、傷口に入らないよう注意することも大切だ。
【症状と潜伏期間】腹痛・下痢・嘔吐・発熱はいつ現れる?
うなぎを食べた後に体調が悪くなった場合、食中毒の原因によって発症までの時間や症状が異なる。特に、サルモネラ属菌と黄色ブドウ球菌では潜伏期間に大きな差がある。
サルモネラ属菌の潜伏期間と症状
東京都保健医療局の情報によると、サルモネラ属菌の潜伏期間は6~72時間とされている。
主な症状は次のとおりだ。
- 腹痛
- 下痢
- 嘔吐
- 発熱(38~40℃程度になることもある)
特徴的なのは発熱を伴う胃腸炎症状だ。腹痛や下痢だけでなく、高熱が出ることもある。
乳幼児や高齢者などは、脱水症状や菌血症などによって重症化する可能性がある。
黄色ブドウ球菌の潜伏期間と症状
黄色ブドウ球菌による食中毒は、サルモネラ属菌よりも短時間で症状が現れる傾向がある。
横浜市の公表情報では、潜伏時間は約30分~5時間、平均約3時間とされている。
主な症状は、吐き気、嘔吐、下痢などだ。毒素を摂取して発症するため、食後数時間以内に急激な吐き気や嘔吐が現れることがある。
なお、発熱が目立たない場合でも黄色ブドウ球菌による食中毒は否定できない。
潜伏期間の比較
| 病因物質 | 潜伏期間 | 主な症状 |
|---|---|---|
| サルモネラ属菌 | 6~72時間 | 発熱、腹痛、下痢、嘔吐 |
| 黄色ブドウ球菌 | 30分~5時間 | 吐き気、嘔吐、下痢 |
ただし、潜伏期間だけで原因菌を特定することはできない。食べた食品や摂取量、個人の体調によっても症状の出方は異なる。
食後に症状が出たらどうすればいい?
うなぎを食べた後に腹痛や下痢、嘔吐、発熱が現れた場合には、食べた日時や商品、購入店舗、同じ料理を食べた人の体調などを整理しておくと、医療機関での診察に役立つ。
特に、繰り返す嘔吐、水分が取れない状態、尿量の減少、強い腹痛、高熱、血便などがある場合には、速やかに医療機関へ相談したい。
乳幼児、高齢者、免疫機能が低下している人は重症化に注意が必要だ。自己判断で下痢止めなどを使用せず、医師の指示を受けることが望ましい。
食中毒が疑われる場合、残っている食品や包装、レシートなどは可能な範囲で保管し、保健所への相談も検討したい。
【予防法を実践】うなぎの加熱・保存・調理器具の衛生管理
うなぎ食中毒を防ぐために重要なのは、食中毒予防の基本である「つけない・増やさない・やっつける」の3原則だ。
特に蒲焼やうなぎ弁当では、加熱後の二次汚染と保存中の細菌増殖を防ぐことが重要になる。
1.手洗いと手指の衛生を徹底する
黄色ブドウ球菌は人の皮膚や鼻、喉などに存在するため、調理する人の手指から食品に付着する可能性がある。
調理前、トイレの後、生の食品を扱った後、顔や髪に触れた後には、石けんを使って丁寧に手を洗うことが基本だ。
手指に切り傷や化膿した部分がある場合は、食品に直接触れる作業を避ける。使い捨て手袋を使用する場合も、着用前の手洗いと適切な交換が必要になる。
2.調理器具を使い分けて二次汚染を防ぐ
包丁、まな板、トング、ボウルなどは、使用後に洗剤と流水で十分に洗浄する。
生のうなぎやほかの生鮮食品を扱った器具を、洗浄せずに焼き上がった蒲焼の切り分けや盛り付けに使用してはいけない。
厚生労働省は、包丁やまな板を洗浄した後に熱湯をかける方法などを紹介している。器具の用途を分けることも有効だ。
また、ふきんやスポンジも細菌汚染の原因になるため、清潔なものを使い、使用後は洗浄して乾燥させる。
3.十分に加熱してサルモネラ属菌を防ぐ
厚生労働省が家庭での食中毒予防の目安として示しているのは、加熱する食品の中心温度を75℃で1分間以上にすることだ。
うなぎを家庭で調理する場合も、表面だけでなく食品の中心部まで十分に加熱することを意識したい。
市販の蒲焼を温め直す場合には、製品の表示や調理方法に従い、中心部までしっかり温める。ただし、加熱によって黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンまで無害化できるわけではないため、保存状態の悪い食品を再加熱して食べることは避けるべきだ。
4.保存温度を守り、常温で放置しない
調理済みのうなぎは、食べるまでの時間と保存温度が重要になる。
厚生労働省が示す家庭での保存の目安は、冷蔵庫が10℃以下、冷凍庫がマイナス15℃以下だ。冷蔵・冷凍しても細菌がすべて死滅するわけではないため、早めに食べきる必要がある。
持ち帰り用のうなぎ弁当などについて、厚生労働省は、調理した食品を速やかに10℃以下まで冷やすか、65℃以上で保管するよう案内している。また、食べるまでの時間を短くし、保冷剤やクーラーボックスなどを活用することも推奨している。
食べ残しは清潔な容器に小分けして速やかに冷蔵し、時間が経ちすぎたものは処分する。
5.うなぎ弁当は購入後できるだけ早く食べる
うなぎ弁当は、調理、盛り付け、包装、輸送、購入後の持ち運びと、食べるまでに複数の工程を経る。
特に夏場は、外気温が高く、持ち歩いている間に食品の温度が上昇しやすい。
購入時には消費期限や保存方法を確認し、寄り道をせずに持ち帰ることが大切だ。冷蔵が必要な商品はすぐに冷蔵庫へ入れ、食べる際は表示に従う。
次のような状況では、無理に食べない判断が必要になる。
- 長時間、暑い場所に置いていた。
- 保存温度が分からない状態で持ち歩いた。
- 消費期限を過ぎている。
- 包装が破損しているなど、保存状態に問題がある。
- 保存状況に不安があり、安全性を判断できない。
見た目やにおいに異常がないからといって、安全とは限らない。特にエンテロトキシンは、食品の外観や味だけで存在を判断できないため、保存履歴を重視したい。
【うなぎ食中毒原因】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:うなぎの蒲焼は十分に焼いてあれば食中毒にならない?
加熱によってサルモネラ属菌などを減らすことはできるが、加熱後に手指や調理器具から菌が付着する可能性がある。また、黄色ブドウ球菌が産生したエンテロトキシンは通常の加熱では無害化されないため、加熱後の衛生管理と保存も必要だ。
Q2:うなぎ食中毒の潜伏期間は何時間?
原因菌によって異なる。サルモネラ属菌は6~72時間、黄色ブドウ球菌は約30分~5時間が目安となる。ただし、個人差があるため、潜伏期間だけで原因を断定することはできない。
Q3:うなぎの血には本当に毒がある?
ある。新鮮なうなぎの血液には血清毒が含まれ、大量に飲むと健康被害を引き起こす可能性がある。ただし、60℃で5分間加熱すると毒性を失うため、通常の加熱調理をした蒲焼では食品衛生上の問題はないとされる。
Q4:黄色ブドウ球菌の毒素は再加熱で消える?
消えるとは限らない。エンテロトキシンは熱に強く、通常の加熱調理では無害化されない。毒素をつくらせないために、調理者の手指を清潔に保ち、食品を適切な温度で保存することが重要だ。
Q5:うなぎ弁当を翌日に食べても大丈夫?
一律に翌日でも安全とはいえない。商品の消費期限、表示された保存方法、購入後の温度管理によって異なる。常温で長時間放置したものや保存状態が不明なものは食べないようにしたい。
Q6:うなぎを食べた後に下痢や嘔吐が出たらどうする?
水分補給を心がけ、症状が強い場合や長引く場合は医療機関を受診する。繰り返す嘔吐、脱水、高熱、血便、強い腹痛などがある場合は速やかな受診が必要だ。乳幼児や高齢者は特に注意したい。
まとめ:うなぎ食中毒を防ぐ鍵は加熱後の衛生管理にある
うなぎ食中毒の原因は、うなぎの血液に含まれる自然毒だけではない。2026年の姫路市ではサルモネラ属菌O4群、2024年の横浜市では黄色ブドウ球菌による食中毒が確認されており、細菌性食中毒にも十分な注意が必要だ。
2つの事例から見えてくるのは、うなぎ料理の安全性が焼き上げる工程だけで決まるわけではないということだ。特に弁当や大量調理では、盛り付け時の手指の衛生、調理器具の洗浄・消毒、調理後の温度管理が欠かせない。
家庭でできる対策も明確だ。食品の中心まで十分に加熱すること、調理前後に手を洗うこと、生の食品と調理済み食品の器具を使い分けること、冷蔵保存を徹底することが基本になる。
また、うなぎの血清毒と細菌性食中毒を混同しないことも重要だ。通常の加熱調理で血清毒の危険性は取り除ける一方、黄色ブドウ球菌が産生した毒素は加熱後も残る可能性がある。
うなぎを安全に楽しむための判断基準は「十分に加熱されているか」「調理後に衛生的に扱われているか」「適切な温度で保存されているか」の3点だ。土用の丑の日だけでなく、日常的に蒲焼やうなぎ弁当を購入する際にも、この基本を意識したい。