日韓トンネルは現在どこまで進んだ?2026年最新の唐津市回答と建設計画の実態を徹底検証
日韓トンネルは現在、どこまで建設が進んでいるのか。佐賀県唐津市から長崎県の壱岐・対馬を経由し、韓国・釜山までを海底トンネルで結ぶ壮大な構想は、1980年代から調査活動が続けられてきた。しかし、2026年10月30日に更新された唐津市の公式回答によって、現地の調査斜坑をめぐる行政の認識や、事業化の現状が改めて明らかになった。
特に注目すべきなのは、唐津市が調査斜坑の存在を把握している一方、現在の掘削状況、管理主体、今後の工事計画については把握していないと回答した点だ。国土交通省も過去の公式会見で、国土形成計画において日韓海底トンネルを検討したことはないと説明している。建設費約10兆円という数字や、旧統一教会との関係、実現可能性をめぐる議論も含め、2026年時点の実態を整理する。
【2026年最新】日韓トンネルは現在どこまで進んだ?唐津市の公式回答を検証
2026年の日韓トンネルをめぐる最大の新情報は、唐津市が公表した調査斜坑に関する公式回答だ。
唐津市の公式ホームページには、令和8年9月29日回答として、鎮西町の調査斜坑に関する19項目の質問への回答が掲載された。ページの更新日は2026年10月30日。調査斜坑の存在、工事の状況、行政の関与、安全管理、建設費の公的負担、今後の掘削計画など、事業の実態を判断するうえで重要な項目が網羅されている。
唐津市は調査斜坑の存在を認めている
唐津市は、鎮西町名護屋に「日韓トンネル唐津調査斜坑」と呼ばれる施設が存在することを把握している。
ただし、市の回答には重要な留保がある。市は事業に一切関与していないとして、施設の管理主体、事業主体、現在の利用状況、これまでの掘削状況、現在も掘削工事が行われているかどうかを把握していないと説明した。
つまり、調査斜坑が存在することと、日韓トンネルの建設工事が現在進んでいることは、別の問題として扱わなければならない。
540メートルの調査斜坑は現在も掘削中なのか
唐津斜坑の掘削距離については、推進団体である国際ハイウェイ財団の公開資料に540メートルという数字が記載されている。
さらに2026年4月28日、同財団の魚谷俊輔理事長は、光言社の「中和新聞」に掲載された連載記事で、現在掘っているのは調査斜坑であり、540メートルまで掘り進んでいると説明した。今後は1,000メートルまで延伸し、その先に先進導坑、作業坑、本坑を掘削する構想も示している。
ただし、これは推進団体側の説明である。唐津市は2026年9月29日の回答で、現在の掘削工事や調査の実施状況を把握していないとしている。両者の情報には確認主体の違いがあり、財団側の説明だけで2026年秋の現場稼働を確定することはできない。
唐津市が明らかにした行政関与と安全管理の実態
今回の回答で特に注目されるのは、工事の有無だけではない。行政記録、安全管理、環境調査についても、市が把握している範囲が明らかになった。
市の回答によると、保存期間内の行政文書では、過去の許可申請や届出、協議などの事実を確認できなかった。保存期間を過ぎた古い文書については、関連資料が残っておらず、事実の有無を確認できないという。
また、地下水や湧水の発生、排水処理、周辺河川・水路・井戸への影響について、市による確認記録はない。環境影響調査についても、保存期間内の文書から確認できなかった。
安全管理の担当者についても市は把握していない。加えて、当該斜坑は唐津市火災予防条例の指定洞道に該当しないため、市や消防による立入検査や安全確認は過去に実施されておらず、その記録もないとしている。
市は事故や災害が発生した場合、通常の災害と同様に消防や警察などの関係機関と連携して対応すると説明した。
事業者との接触については、過去5年間に面会などの事実はなく、今後の掘削計画についても相談を受けていない。
「本市としてはこの事業に関与しておらず、あくまで民間団体が任意に私有地内で活動されているものと捉えています。」
これは唐津市が示した公式な立場だ。調査斜坑が存在することを理由に、市や国が建設事業を進めていると理解するのは正確ではない。
2010年の合同勉強会に関する記録も判明
一方、行政との接点がまったくなかったわけではない。
唐津市は、平成22年(2010年)の市議会会議録に、企画経営部長が県の担当部署から日韓トンネルに関する合同勉強会の立ち上げに向けた事前説明を受けたと発言した記録があることを明らかにした。
ただし、当時の関連文書は保存期間を経過しており、説明の具体的な内容や相手方については確認できない。これ以外の佐賀県や国との協議についても、保存期間内の文書では確認されなかった。
したがって、過去に行政関係者が構想について説明を受けた事実と、行政が建設を承認した事実は区別する必要がある。
【構想の全体像】唐津・壱岐・対馬・釜山ルートと総延長・建設費
日韓トンネルは、九州北部と韓国南部を海底トンネルなどで接続する国際交通インフラ構想だ。
日本側の起点は佐賀県唐津市鎮西町名護屋とされ、長崎県の壱岐、対馬を経由して韓国の釜山方面へ至るルートが基本となっている。
日韓トンネルの基本スペック
日韓トンネル研究会が公開している計画概要では、構想の規模は次のように示されている。
- 日本側起点:佐賀県唐津市
- 経由地:長崎県壱岐市・対馬市
- 韓国側の終点:釜山
- 総延長:約270キロメートル
- 海底部分:約150キロメートル
- 最大水深:約170メートル
- 概算建設費:約10兆円
- 想定工期:着工後約10年
これらは推進団体が提示する構想上の数値であり、政府が承認した確定設計や事業費ではない。
総延長270キロと230キロの違いは何か
日韓トンネルを調べると、総延長が約230キロメートルとする報道や、約270キロメートルとする研究会の資料が見つかる。
これは必ずしも単純な誤記ではない。過去の研究では、韓国側の終点を巨済島とする案や釜山とする案など、複数のルートが検討されてきたためだ。
2003年に韓国交通研究院が検討した3つのルートでは、全長209~231キロメートル、海底区間128~145キロメートル、最大水深155~220メートルという数値が示されている。
一方、日韓トンネル研究会が現在公開している基本諸元では、唐津から釜山まで総延長270キロメートル、海底部分150キロメートルとしている。
つまり、現在インターネット上で見かける距離の違いは、複数の計画案や試算の違いを反映している。最終的なルートが政府間で決定されたわけではない。
自動車がそのまま走れる道路ではない
もう一つ、誤解されやすいのが交通方式だ。
日韓トンネル研究会が示す構想では、新幹線や韓国のKTXに相当する高速鉄道、貨物コンテナ列車、さらに自動車を運ぶシャトル列車の利用が想定されている。
そのため、一般の自動車が高速道路のように直接走行する方式とは異なる。車両を専用列車に載せて国境を越える方式が検討されている。
旅客輸送だけでなく、物流や貨物輸送を含めた国際交通ネットワークとして位置付けられている点が、この構想の特徴だ。
【推進団体の系譜】文鮮明の提唱から国際ハイウェイ財団まで
日韓トンネルの歴史を理解するには、構想を最初に提唱した人物と、その後に活動してきた複数の団体を分けて考える必要がある。
現在の構想に大きな影響を与えたのは、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の創始者である文鮮明氏だ。
1981年、文鮮明氏が国際ハイウェイ構想を提唱
1981年11月10日、韓国・ソウルで第10回「科学の統一に関する国際会議(ICUS)」が開催された。
国際ハイウェイ財団が公開している沿革によると、この会議で文鮮明氏がアジア大ハイウェイと日韓トンネル構想を提唱した。
目指していたのは、日本と韓国を海底トンネルで接続するだけではない。韓国から北朝鮮、ロシアを経由してヨーロッパへ至る国際交通ネットワークを構築するという、より大きな構想だった。
ただし、日本と大陸をトンネルでつなぐ発想そのものには、それ以前の歴史もある。戦前にも九州から壱岐、対馬を経て朝鮮半島へ至る海峡トンネル構想が検討されたとする資料が残っている。
文鮮明氏の提唱は、こうした前史を持つ構想を国際ハイウェイという大規模なプロジェクトとして再び推進する契機になった。
国際ハイウェイ財団と日韓トンネル研究会は別組織
ここで注意したいのは、日韓トンネルに関係する団体が一つではないという点だ。
1982年には国際ハイウェイ建設事業団が設立され、1983年には国際ハイウェイプロジェクト・日韓トンネル研究会が発足した。
その後、研究会は2004年に特定非営利活動法人(NPO法人)となった。一方、一般財団法人国際ハイウェイ財団は2009年1月8日に設立されている。
研究や技術検討を担う団体と、構想の推進や調査研究への助成を目的とする財団は、名称が似ていても同一法人ではない。
旧統一教会との関係はどこまで確認されているのか
旧統一教会との関係については、単なるネット上の噂として片付けられない経緯がある。
2022年の福岡TNCの報道では、NPO法人日韓トンネル研究会の会長が、文鮮明氏の1981年の提案をきっかけに研究会が設立されたことを説明し、旧統一教会との一部の関係を認める文書回答を行ったと報じられた。
さらに2023年1月の毎日新聞の調査報道では、国際ハイウェイ財団が九州北部の唐津、壱岐、対馬に少なくとも約46万平方メートルの土地を取得していたことが明らかになった。
同報道によれば、財団は前身団体の国際ハイウェイ建設事業団が旧統一教会から約100億円の寄付を受けたと説明している。文鮮明氏自身も2005年の説教で、日韓トンネル構想に100億円以上の教団資金を投入したと述べていたことが報じられた。
こうした経緯から、日韓トンネル構想と旧統一教会の歴史的・資金的な関係には具体的な報道上の裏付けがある。ただし、関連するすべての研究団体や個人が教団と同一の組織であるという意味ではない。
また、2025年末には韓国で、日韓トンネル構想の実現に関係する金品授受疑惑が報じられた。2026年4月には、疑惑の対象となった田載秀氏について韓国の合同捜査本部が不起訴処分としたと報じられている。理由は証拠不十分または公訴時効の成立とされた。疑惑報道と確定した犯罪事実は区別して理解する必要がある。
【関係者と経緯を整理】日韓トンネルの歴史と組織の関係年表
日韓トンネルの動きを追うと、構想の提唱、調査団体の設立、現地での掘削、財団の設立、自治体の回答という複数の段階が存在する。
主要な出来事と関係組織を時系列で整理すると、現在の位置付けが見えやすい。
| 時期 | 人物・団体 | 出来事と現在の意味 |
|---|---|---|
| 1981年11月 | 文鮮明氏・ICUS | 国際ハイウェイと日韓トンネル構想を提唱。 |
| 1982年 | 国際ハイウェイ建設事業団 | 建設事業を担う組織が発足。 |
| 1983年5月 | 日韓トンネル研究会 | 日本側の研究団体が設立される。 |
| 1986年10月 | 唐津調査斜坑 | 佐賀県唐津市で調査斜坑の掘削が始まる。 |
| 2004年6月 | NPO法人日韓トンネル研究会 | 研究活動を継承するNPO法人が設立される。 |
| 2009年1月 | 国際ハイウェイ財団 | 一般財団法人として設立される。 |
| 2026年4月 | 国際ハイウェイ財団理事長 | 連載記事で唐津斜坑540メートルと今後の延伸構想を説明。 |
| 2026年9月29日 | 唐津市 | 調査斜坑の存在を把握する一方、現在の掘削状況や事業化を把握していないと回答。 |
| 2026年10月30日 | 唐津市 | 上記の公式回答をホームページで更新・公表。 |
この年表から分かるのは、約40年にわたって民間団体による研究・調査活動が続いてきた一方、2026年現在も国の正式な建設事業として動いていることを示す段階には至っていないということだ。
また、唐津市の回答と財団側の説明は、それぞれ異なる立場から出された情報である。現地施設の存在、民間団体の計画、政府の事業決定を一つの進捗情報として混同しないことが重要だ。
【実現可能性を検証】建設費約10兆円と技術・採算の壁
日韓トンネルが実現するかどうかを判断する際、最大の論点となるのが建設費と経済合理性だ。
推進団体は約10兆円という概算を提示している。しかし、これは政府が決定した予算でも、国際的な合意に基づく確定事業費でもない。
約10兆円は誰が負担するのか
日韓トンネル研究会が示す運営構想では、インフラの建設と保有を公的主体が担い、実際の運営を民間が担当する上下分離方式が提案されている。
つまり、推進団体の構想そのものが、民間資金だけで建設費を賄う仕組みではなく、日本と韓国の公的主体による関与を想定している。
しかし、2026年10月の唐津市回答では、国などから日本側の建設費負担に関する通知や説明を受けた事実はないとされている。唐津市自身も、関連事業に公費を支出した事実はないと回答した。
そのため、「日本政府が10兆円の半分を負担することが決まっている」といった情報には、確認できる公的な根拠がない。
韓国の研究機関が示した厳しい採算評価
経済性については、韓国側でも過去に調査が実施されている。
2003年、韓国交通研究院は日韓トンネル研究会が提示した複数のルートについて費用便益比(B/C)を分析した。その結果は0.4~0.6程度で、一般的な公共投資の評価基準となる1.0を下回っていた。
さらに2010年から2011年にかけての韓国側の基礎調査でも、釜山・対馬・福岡を結ぶ構想は巨額の建設費と長い工期が問題となり、経済的妥当性が低いと判断された。
推進側は、貨物輸送の拡大、観光交流、地域開発、国際物流の効率化といった長期的な社会的便益を評価に加えるべきだと主張している。
しかし、将来の経済効果を期待することと、実際に10兆円規模の投資を回収できることは別の問題だ。旅客数、貨物量、運賃、維持管理費、更新費用まで含めた具体的な収支計画が必要になる。
海底150キロを掘削する技術的な難しさ
海底トンネルの建設技術そのものは、青函トンネルや英仏海峡トンネルなどの実績がある。しかし、既存の技術があるからといって、日韓トンネルを同じ条件で建設できるわけではない。
日韓トンネル研究会自身も、対馬と韓国の間にある対馬海峡西水道を技術的に特に注意すべき区間として挙げている。
同研究会の技術資料では、未固結層の掘削や高い水圧への対応、長距離掘削が可能なシールドマシンの開発、長期間にわたって安全性を維持できるトンネル構造などが課題として示されている。
具体的には、次のような検討が必要だ。
- 海底地質:断層、堆積層、岩盤の状態を広範囲に把握する必要がある。
- 水圧への対応:深い海域での高水圧や地下水の浸入を防がなければならない。
- 防災・避難:火災、浸水、地震などの緊急時に利用者を安全に避難させる仕組みが必要。
- 排水・環境対策:湧水の処理、掘削土の処分、周辺の海洋環境への影響評価が不可欠。
- 維持管理:完成後も長期にわたる点検、補修、設備更新を続けなければならない。
加えて、日韓の国境を通過する以上、建設技術だけでなく、税関、出入国管理、保安、運行ルール、事故発生時の責任分担など、国際交通インフラとしての制度設計も必要になる。
したがって、日韓トンネルの実現可能性は、単純に「掘れるか、掘れないか」だけでは判断できない。技術的な可能性、採算性、資金調達、政治的合意という複数の条件を同時に満たす必要がある。
【反対理由と評判】宗教団体との関係、地域負担、日韓双方の懸念
日韓トンネルには、国境を越えた交流を促進するという期待がある一方、建設に慎重な意見も根強い。その理由は宗教団体との関係だけではなく、経済、外交、環境、地域社会の問題にまたがっている。
反対理由1:巨額の建設費に見合う需要があるのか
最も大きな反対理由は、約10兆円という建設費に見合う輸送需要があるかという点だ。
日本と韓国の間には、すでに航空便やフェリーなどの交通手段が存在する。海上輸送や航空輸送と比較して、トンネルを利用することでどれほど時間や費用を削減できるのか、具体的な比較が欠かせない。
また、旅客だけでなく貨物輸送についても、既存の海上物流からどの程度の需要を移転できるかが採算を左右する。
反対理由2:九州と釜山の経済格差によるストロー効果
韓国側の議論では、トンネルの開通によって経済力の大きい地域へ人材や消費が流出する「ストロー効果」も懸念されてきた。
2017年の韓国・中央日報の報道では、九州と釜山の経済規模などの違いから、釜山側の経済活動が九州に吸収される可能性を心配する意見が紹介されている。
交通網の整備は必ずしも両地域に均等な利益をもたらすわけではない。どちらの地域が物流拠点や雇用を獲得するのかという問題は、事業を検討するうえで重要だ。
反対理由3:日韓の歴史認識と外交問題
日韓トンネルは、単なる土木工事ではない。国境を越える巨大なインフラであり、両国の政治的な信頼関係が不可欠だ。
2019年以降の日韓関係の緊張を背景に、韓国国内では構想に対する批判も表面化した。2021年には韓国の与党側の報道官が、日韓トンネル構想を「親日的な議題」と位置付けて反対の立場を示したと報じられている。
植民地支配の歴史を含む両国間の問題が残るなかで、巨大な共同インフラを建設するには、国民の理解と政治的な合意が欠かせない。
反対理由4:旧統一教会との関係や資金の透明性
旧統一教会との関係も、日韓トンネルの社会的評価に大きな影響を与えてきた。
文鮮明氏が提唱した構想であること、前身団体への約100億円の寄付、関連用地の取得、推進団体と教団との接点などが報道され、事業の目的や資金の流れについて疑問が提起されている。
交通インフラとしての価値を評価することと、推進団体の組織的背景や資金調達の透明性を検証することは、別々に行う必要がある。構想に賛成する技術者や地域関係者の存在だけで、組織的な関係の問題が解消されるわけではない。
反対理由5:地域の環境と安全管理
海底トンネル建設には、海洋環境、地下水、漁業、掘削土の処理など、広範囲にわたる環境面の検討が必要になる。
特に唐津市の回答では、調査斜坑の地下水や湧水、排水処理について市による確認記録がないことが明らかになった。
これは環境被害が発生しているという意味ではない。一方で、行政による確認記録がない以上、環境面で問題がないと断定することもできない。
大規模な建設事業として進めるなら、施設の管理主体、排水処理の責任、周辺住民への説明、安全点検の仕組みを明確にする必要がある。
推進派が期待するメリットもある
一方、推進派が掲げるメリットにも一定の合理性はある。
- 日本と韓国の旅客・貨物輸送の選択肢が増える。
- 唐津、壱岐、対馬など九州北部の地域開発につながる可能性がある。
- 東アジアの物流ネットワークを強化できる。
- 日韓の人的交流や観光交流を促進できる可能性がある。
- 将来的には韓国から北朝鮮、ロシア方面への鉄道接続構想にもつながる。
ただし、これらは構想上の期待効果であり、実際の経済効果が確定したわけではない。建設費や維持管理費を上回る利益が得られるかについては、客観的な需要予測が求められる。
【国土交通省の見解】日本政府は日韓トンネルを推進しているのか
日韓トンネルについては、政治家や民間団体が関心を示した過去がある。しかし、それが日本政府の正式な政策として採用されていることを意味するわけではない。
重要な資料となるのが、2022年8月26日に行われた斉藤鉄夫国土交通大臣の記者会見だ。
この会見では、旧統一教会の創始者が提唱した日韓トンネル構想について、国土交通省が何らかの検討を行ったことがあるか質問された。
これに対して大臣は、次のように回答した。
「国土形成計画において、日韓海底トンネル構想について検討したことはありません。」
加えて、大臣自身も構想について新聞報道などで存在を知っていたものの、関係団体や議員から説明や要望を受けた経験はないと述べている。
個人的な感想としては、構想について「ある意味で、ちょっと荒唐無稽な構想だと率直に思っています」と発言した。
ただし、これは大臣の個人的な評価を含む会見での回答であり、正式な政府の政策決定文書と混同してはならない。
日本政府が建設費を負担する決定はあるのか
2026年10月30日に更新された唐津市の回答では、国などから建設費の日本側負担に関する通知や説明を受けた事実はないと明記されている。
市が公費を支出した事実もない。日韓トンネル本体の事業化についても、事実を把握していないとしている。
このため、現段階で日本政府が建設費の半分を負担する、あるいは国土交通省が建設計画を進めているという情報を裏付ける公的資料は確認できない。
また、韓国側で過去に政府機関や自治体が調査・研究を行ったことがあっても、それだけで日韓両国による共同建設が決定したわけではない。
今後、正式な国家プロジェクトに進むためには、両国政府の合意、事業主体の決定、予算措置、ルートの確定、環境評価、国会での議論など、複数の手続きが必要になる。
【日韓トンネルに関するよくある質問(FAQ)】
Q1:日韓トンネルは2026年現在も建設中ですか?
A1:日韓トンネル本体が建設中であることを示す公的な決定や工事記録は確認されていない。唐津市は調査斜坑の存在を把握しているものの、現在の掘削状況は把握していない。一方、2026年4月には国際ハイウェイ財団理事長が540メートルまで掘り進んでいると説明している。したがって、民間団体の調査活動に関する説明と本体工事の進捗は区別する必要がある。
Q2:日韓トンネルの建設費は本当に10兆円ですか?
A2:約10兆円は日韓トンネル研究会などが示している概算建設費であり、政府が決定した確定予算ではない。ルート、地質、施工方法、設備、維持管理費などによって変動する可能性がある。
Q3:日韓トンネルは旧統一教会が進めている事業なのですか?
A3:構想の大きな起点は、旧統一教会創始者の文鮮明氏が1981年に提唱した国際ハイウェイ構想にある。前身団体への寄付や土地取得、関連団体との関係も報道されている。ただし、国際ハイウェイ財団、NPO法人日韓トンネル研究会、その他の推進団体は、それぞれ組織上の区別がある。
Q4:唐津市は日韓トンネル建設に協力しているのですか?
A4:唐津市は2026年9月29日の回答で事業への関与を否定し、民間団体が私有地内で活動しているものと捉えていると説明している。市の公費支出もないとしている。
Q5:日韓トンネルの実現可能性はどの程度ありますか?
A5:海底トンネルを建設する技術的な可能性だけでなく、約10兆円とされる費用の調達、経済性、海底地質の調査、環境対策、日韓両国の政治的合意などが必要になる。過去の韓国側の調査でも経済性に厳しい評価が出ており、2026年現在、具体的な建設決定には至っていない。
まとめ:日韓トンネルは構想段階、今後の判断を左右する3つのポイント
2026年11月現在の日韓トンネルをめぐる状況を整理すると、唐津市に調査斜坑が存在すること、推進団体が約540メートルの掘削実績を説明していること、そして国際ハイウェイ財団などが構想の実現を目指して活動していることは確認できる。
一方、唐津市は現在の掘削状況や管理主体を把握しておらず、今後の掘削計画についても相談を受けていない。日韓トンネル本体の事業化についても把握していないと回答した。国土交通省の過去の会見でも、国土形成計画での検討実績はないと説明されている。
今後の動向を判断するうえでは、次の3点が重要になる。
- 現地の実態:唐津調査斜坑の現在の掘削状況、管理主体、安全管理、排水処理が明確になるか。
- 公的な事業化:日本・韓国両政府が正式な調査、ルート選定、予算措置、事業主体の決定に進むか。
- 経済性と透明性:約10兆円という試算の妥当性、建設後の需要、資金調達、推進団体の組織・資金関係が明確になるか。
日韓トンネルは、国境を越える壮大な交通インフラ構想である。しかし、長年にわたる民間団体の調査活動と、国家プロジェクトとしての建設決定には大きな隔たりがある。
2026年10月の唐津市回答が示したのは、調査斜坑の存在そのものよりも、現地の管理や行政関与について確認できている範囲が限られているという実態だ。
今後、本当に建設計画が動き出すのかを見極めるには、推進団体の発表だけでなく、自治体の行政記録、国の正式な政策決定、日韓両国の合意、そして事業費と経済効果の具体的な根拠を追う必要がある。現時点の日韓トンネルは、完成に向けた国家プロジェクトではなく、長年続く民間主導の構想・調査活動として捉えるのが実態に即した理解だ。
主な検証資料: 唐津市公式回答、国土交通省大臣会見、国際ハイウェイ財団公開資料、日韓トンネル研究会の沿革・技術資料、毎日新聞・福岡TNC・聯合ニュース・AFPBB Newsの報道。